「海外でワールドカップを観る。」
メキシコという、どこか遠くて、けれど不思議と温かいこの国に滞在している間、その経験だけは絶対にしてみたいと、心のどこかで強く願っていました。
そして迎えた、ここモンテレイでの日本対チュニジア戦。
それは単なる試合の勝敗を超えて、自分が日本人であることを、改めて実感する、忘れられない一日となりました。
今回は、あの日、私が現地で実際に目にしたワールドカップ観戦の記憶を、写真とともに振り返ってみたいと思います。

日本企業が数多く進出する工業都市・モンテレイ
メキシコ北部に位置するモンテレイは、この国屈指の工業都市です。
多くの日本企業の名前が地域経済の屋台骨として、ごく自然に風景に溶け込んでいます。そのため、多くの日本人駐在員やその家族が、日々の営みを刻んでいる街でもあります。
私が降り立ったモンテレイ空港は、すでにワールドカップというお祭りの空気に包まれていました。
空港の自動ドアをくぐり、一歩外へ出た瞬間から、「世界最大級のスポーツイベントが、今、ここで始まる」という、独特の胸の奥が少し熱くなるような高揚感を感じました。

シャトルバスから始まるお祭りムード
試合会場へは、FIFAが運行するシャトルバスを利用してBBVAスタジアムへ向かいました。
バスの中は、すでに日本代表のユニフォームを着たサポーターたちで満員です。その中には、もちろんチュニジアサポーターの姿も。
車内はお互いの応援歌を歌い合ったり、誰かが拍手を始めればそれに合わせたりと、すでにひとつの大きな祭りのような一体感がありました。
敵と味方。その境界線は、このバスの中では「同じワールドカップを楽しみに来た仲間」という、もっと柔らかくて大きなものに包まれていたのが、とても印象的でした。

夕日に染まるBBVAスタジアム
スタジアムに到着すると、19時から入場開始。
しかし、そこで私を待っていたのは、想像を絶する長蛇の列でした。

少しずつ、けれど確実に進まない列に並びながら、ふと周囲を見渡すと、目の前にはモンテレイのシンボル、ラ・シージャ(Cerro de la Silla)の雄大な山影が。

その背後には、美しい夕日が沈んでいきました。
人々の熱気と、オレンジ色に染まるメキシコの空。
スタジアム周辺では、国籍なんて関係なく、ユニフォーム姿のサポーター同士が「写真を撮ろうよ!」と声を掛け合い、笑顔で記念撮影をする姿が。
サッカーが、言葉や国境を越えるためのもっとも原始的で、けれど強力なツールであることを、改めて感じる瞬間でした。

まるで日本のホームスタジアム
ゲートをくぐり、スタジアムの中へ入って最初に驚いたのは、その圧倒的な空気でした。

周囲を見渡す限り、青い日本代表のユニフォーム。
体感では90%が日本サポーターで、チュニジアサポーターはほんのわずかしか見当たりません。
さらに印象的だったのは、多くのメキシコ人が日本代表のユニフォームを着て、私たちと一緒に声を枯らして応援していたこと。
そこは完全に、日本のホームゲームのような、温かくて熱い空気が全体を包んでいました。

地響きのような日本サポーターの応援
キックオフの笛が鳴ると、そこからはもう、テレビでは絶対に伝わらない、魂のぶつかり合いでした。
日本サポーターの応援が、まるでスタジアムそのものを揺らす地響きのように響き渡ります。

「これがワールドカップか。」
自然と自分もその熱の中に溶け込み、声が枯れるまで、腕を振り上げて応援していました。
日本代表がゴールを決めるたび、スタンドは大歓声に包まれます。隣に座る、顔も名前も知らない人とハイタッチを交わし、喜びを分かち合う。

ハーフタイムには会場の至るところで日本の応援歌が歌われ、スタジアム全体を使った照明演出も行われるなど、試合以外でもエンターテインメントとして完成された空間でした。

そして試合は日本が大勝。内容も素晴らしく、最高の思い出になりました。
海外でワールドカップを観るということ
今回強く感じたのは、海外でワールドカップを観ることは、単なるスポーツ観戦ではないということです。
それは、自分自身のアイデンティティを、改めて再確認する時間でもありました。
私はメキシコで生活している間、日本人として、常に「少数派(マイノリティ)」の立場でした。
そんな日常の中で、数万人の日本人と同じ方向を向いて応援し、日本代表を後押しする。この一体感は、海外生活を送っていたからこそ、より強く心に残ったのだと思います。
ワールドカップは世界中の人々をつなぐ大会ですが、同時に「自分はどこから来た人間なのか」を改めて感じさせてくれる場所でもあるのだと思います。

なぜメキシコ人は日本を応援してくれるのか
今回驚いたのは、本当に多くのメキシコ人が日本代表を応援していたことでした。その理由は、いくつかあると思います。
まず、日本のアニメや漫画は、メキシコで非常に高い人気があります。近年はNetflixなどの普及によって、『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『SPY×FAMILY』など新しい作品まで幅広く浸透しています。
さらに、『ドラゴンボール』やスーパー戦隊シリーズといった作品は、何十年にもわたってメキシコの人々に愛され続けてきました。日本のポップカルチャーは、世代を超えて親しまれています。
加えて、日本企業による長年の投資も大きな要因です。特に自動車産業を中心に、多くの日系企業がメキシコで雇用を生み出し、地域経済の発展に貢献してきました。
文化と経済、両方のつながりがあるからこそ、日本に親近感を持つメキシコ人が多いのだと感じました。

メキシコを好きになって帰ってくれる人が増えたら嬉しい
今回のワールドカップをきっかけに、初めてメキシコを訪れた日本人も数多くいたはずです。
日本では「治安が悪い」というイメージが先行しがちなメキシコですが、実際に訪れてみると、人々の温かさやホスピタリティ、世界遺産をはじめとする豊かな観光資源、そして何より美味しい料理に魅了された方も多かったのではないでしょうか。
私自身、この国で長く過ごしたからこそ、その魅力をたくさん知ることができました。
だからこそ、「ワールドカップが終わったらそれで終わり」ではなく、「またメキシコに来たい」と思ってくれる日本人が一人でも増えたら、とても嬉しく思います。







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