メキシコ南部、チアパス州のグアテマラ国境沿いの深いジャングルに眠るヤシュチラン遺跡(Yaxchilán)。 道路は存在せず、ウスマシンタ川をボートで遡らなければアクセスできないという特殊な立地から、「最も秘境感のあるマヤ遺跡」とも呼ばれています。
巨大な石造建築が熱帯雨林の奥深くに姿を現す光景は圧巻で、チチェン・イッツァやパレンケとはまったく異なる神秘的な雰囲気を味わえます。
今回はパレンケ発着のヤシュチラン&ボナンパック日帰りツアーへ参加しました。 この記事では、
- ヤシュチラン遺跡の歴史
- 見どころ
- ツアー当日の流れ
- 実際に歩いたルート
- 参加して感じた感想 まで詳しく紹介します。


ヤシュチラン遺跡とは?
ヤシュチランはマヤ語で「緑の石の場所」を意味し、古代マヤ文明の古典期(紀元250〜900年頃)に繁栄した重要な都市国家です。グアテマラ国境となるウスマシンタ川の大きな湾曲部に位置し、河川貿易を支配することで強大な勢力を誇りました。
ライバル都市との覇権争い
ヤシュチランの歴史は、他のマヤ都市との戦争の歴史でもあります。特に上流に位置するライバル都市ピエドラス・ネグラスとは、長年にわたりウスマシンタ川流域の覇権を争いました。また、ティカルやパレンケといった大都市とも同盟や敵対関係を結び、複雑な政治情勢の中にありました。
保存状態の良い「文字と彫刻」の宝庫
この都市を有名にしているのは、保存状態が非常に良い
- 石碑(ステラ)
- 王の肖像
- 神殿のレリーフ
- 石製リンテル(まぐさ石) などの数々です。
ヤシュチランはマヤ文字の碑文が非常に多く残っている遺跡の一つであり、歴代の王の事績や儀式の様子が詳細に記録されています。
また、現在でも遺跡の周囲はほぼ手付かずの熱帯雨林で覆われており、当時の景観をそのまま残している数少ない遺跡でもあります。

ヤシュチランはツアー参加が必須
ヤシュチランへ個人で行くことは非常に困難です。 理由はシンプルで、
- パレンケから遺跡近くのボート乗り場(フロンテラ・コロサル)までの公共交通機関がほぼ存在しない。
- 遺跡へ行くにはボートをチャーターする必要がある。
- 近くにあるボナンペック遺跡とセットで回るツアーが一般的で、効率的。 だからです。
そのため、多くの旅行者はパレンケ発着の日帰りツアーを利用します。 私もヤシュチランとボナンペックを巡るツアーへ参加しました。

遺跡に行くには、ジャングルの中をボートで約40分ほど進む必要がある。
ツアー当日の流れ
5:30 ホテルを出発
まだ真っ暗な早朝5時30分。 パレンケ市内のホテルまで迎えに来てもらい、ツアーがスタートしました。 道中は約3時間半〜4時間ほど車で走ります。

まだ薄暗い中、ツアーバスがホテルまで迎えに来てくれる。

参加者の人数にもよるが、ツアーバスは基本的に中型のバンであることが多い。
7:00 朝食休憩
途中のレストランで朝食休憩。 多くのツアーが利用する定番の休憩スポットです。ビュッフェ形式になっていますが、料理は卵料理、豆、フリホーレス、トルティーヤといった、かなりシンプルなメキシコ料理です。

レストラン内は朝早くから多くの人でにぎわっていた。

スクランブルエッグ、ライス、フリホーレスなどシンプルなメキシコ料理が中心。ハードな旅なので、朝食はしっかり食べておきたい。
ガイドを雇うことを提案される
朝食後、ツアーガイド(運転手)から 「ヤシュチランとボナンペックの専属ガイドを付けるか?」 という提案がありました。 (ツアー料金には、各遺跡への交通費、ボート代、入場料が含まれていますが、遺跡内の詳しい説明をする専門ガイドは含まれていないことが一般的です)
今回の参加者は全部で6人。 全員が希望したため割り勘となり、一人330ペソ(約2,500円)で両遺跡のガイドをお願いしました。
結果から言えば、このガイドは大正解でした。 単に建物を見るだけでは分からない歴史や王朝の話、そしてレリーフの意味を聞きながら回れるため、満足度が大きく変わります。
9:50 ボート乗り場へ到着
ここから先は車では進めません。フロンテラ・コロサルという集落のボート乗り場で、ヤシュチランへ向かう唯一の交通手段であるボート(ランクサ)に乗り換えます。
ここから約40分〜50分間、ウスマシンタ川を遡ります。 川の対岸はグアテマラ。 まさに国境のジャングルを航行する特別な体験です。運が良ければ、川沿いでワニや、ジャングルの木々にいるサルを見ることができます。

ボート乗り場の様子。訪問した6月はチアパスの雨季にあたるため、水位も上がっていた。

ボートは約10人ほどで満員になる大きさ。ここから約40分、ジャングルの中を進んでいく。
10:30 ヤシュチラン遺跡へ到着
ボートを降りると、そこは完全にジャングル。 鳥の鳴き声と、時折聞こえるハウラーモンキー(ホエザル)の咆哮だけが響き渡る静かな世界です。
遺跡へ向かう道では、野生のサルや、コウモリ、そしてヘビなどにも遭遇しました。ここは動物園ではなく、本物の熱帯雨林。虫よけスプレー、水分、帽子は必須アイテムです。

遺跡へと続く階段。ここから遺跡内へ入っていく。

まさにジャングルの中を進んでいく。必ず虫に刺されるので、強力な虫よけを持っていこう。
ヤシュチラン遺跡の見学ルート
ヤシュチラン遺跡は大きく3つのエリアに分かれています。
- グラン・プラザ(中央広場): ウスマシンタ川沿いの低地に広がる、遺跡の中心部。
- 大アクロポリス: グラン・プラザの南にある、丘の上に築かれた巨大な建築群。
- 小アクロポリス: 大アクロポリスの西にある、もう一つの丘の上の建築群。
遺跡内はかなり広いので、ガイドを雇っていない場合は、地図を確認して効率よくまわる必要があります。

① 冥界の入り口「迷宮(Structure 19)」を通り抜ける
遺跡の入口を抜けてまず最初に現れるのが、Structure 19(ラビリンス / 迷宮)と呼ばれる構造物です。 この建物の最大の特徴は、実際に遺跡の内部(暗闇のトンネル)を歩いて通り抜けられる点にあります。
内部は光がほとんど届かない複雑な二層構造になっており、ガイドのライトを頼りに、コウモリが住み着くひんやりとした暗黒空間を進むのはスリリングそのもの。かつての王たちも、儀式の際にこの暗闇を通ったのかと思うと胸が熱くなります。


ラビリンスを通ってグランプラザを目指す。中は暗いので、ガイドが懐中電灯で照らしてくれる。
② ジャングルに抱かれた「グラン・プラザ(Grand Plaza)」
暗い迷宮を潜り抜けると、視界が一気に開け、遺跡の中心部であるGrand Plaza(中央広場)へと飛び出します。 広場側から振り返って撮影したラビリンスの正面姿は、巨大な樹木や植物に包まれており、「まさにジャングルの中にある遺跡」という言葉がぴったりな、圧倒的に荘厳な佇まいを見せてくれます。

③ 丘の上の神秘「建物30(Edificio 30)」
広場を少し進んだ後、メインのエリアから少しだけ丘を登ってEdificio 30(建物30)へと向かいました。
ここは観光客の喧騒から少し離れた高台に位置する建造物で、周囲を囲む鬱蒼とした熱帯雨林の木々と調和し、グラン・プラザとはまた一味違った、さらに神秘的で静謐な空気が漂っています。


丘の上に立つ建物まで歩いて上る。汗だくになるので、タオルは必須。
④ ヤシュチランの最高峰「建物33(Edificio 33)」
建物30を後にし、少し丘を降りるようにして、ヤシュチラン最大のハイライトであるEdificio 33(建物33)の前に至ります。
この神殿は、10年以上におよぶ激しい王位継承争いを制し、ヤシュチランを最盛期へと導いた名君バード・ジャガー4世(鳥ジャガー4世 / Yaxun B’alam IV)が、自らの即位と王権の正当性を内外に示すために紀元756年頃に築いた記念碑的建造物です。

最大の見どころは、屋根の上にそびえる透かし彫りのような美しい屋根飾り(ルーフコーム)です。これほど見事な状態で古典期の屋根飾りが残っているマヤ神殿は極めて珍しく、マヤ建築の最高傑作の一つとされています。

神殿の入り口のまぐさ石(リンテル)や、内部に遺された彫刻レリーフには、バード・ジャガー4世が羽飾りをまとい、神聖な儀式を執り行う姿が驚くほど精密に彫り込まれています。

⑤ 歴史を物語る2つの石碑(石碑35 & 石碑9)
神殿の前で見学できる石碑35は、まさにこの神殿を建てたバード・ジャガー4世に深く因んだものです。
この石碑には、バード・ジャガー4世の肖像とともに、彼が敵対する都市国家との戦いで勝利し、重要な捕虜を捕らえた武功の様子などが刻まれています。自らの強さと王としての正当性を誇示するための生々しい歴史が、1200年以上の時を超えて現代に伝えられています。

グラン・プラザ近くに立つ「石碑1(Stela 1)」
また、ルートを戻ってグラン・プラザの近くに進むと、もう一つ見逃せない石碑1が立っています。
この石碑もまたバード・ジャガー4世に関連する重要な碑文で、彼が儀式の衣装を身にまとっている姿や、神々や先祖とのつながりを示す宗教的な場面が表現されています。ヤシュチランが「文字と彫刻の都市」と呼ばれる所以を、これら2つの石碑から直に感じ取ることができます。

⑥ 命がけの儀式舞台「球戯場(Juego de Pelota)」
最後に、マヤ文明の遺跡には絶対に欠かせない球戯場(Juego de Pelota)を見学しました。
ヤシュチランの球戯場はグラン・プラザのすぐ近くにあり、かつてこの場所で大勢の民衆が見守る中、命がけの神聖な儀式が行われていたという緊迫感が、今も石組みの間に残っているかのようでした。

帰路
見学後は再びボートに乗り、フロンテラ・コロサルの船着き場へ戻ります。 ジャングルの中から再び文明へ戻っていく感覚は少し名残惜しく感じました。 この後は車で、壁画で有名なボナンペック遺跡へ向かいます。

帰路では、マンゴーを食べるサルにも遭遇した。

ボートに40分、再び船着き場へと向かう。
まとめ
ヤシュチランは単に遺跡を見るだけでも十分感動できます。 しかし、
- ライバル都市との戦争や同盟の歴史
- 神殿や広場の役割
- 精巧なレリーフに描かれた王や王妃、そして儀式の意味
- マヤ文字の碑文が語る内容 まで理解すると、満足度はまったく違います。
ヤシュチランは「文字と彫刻の都市」です。個人でゆっくり遺跡を周るのも良いですが、その真価を知るためには、歴史を背景を知るガイドを付けると良いでしょう。
生い茂る熱帯雨林、響き渡るサルの声、そしてマヤ美術の最高峰のレリーフ。それら全てを体験できるヤシュチランは、メキシコ・チアパス州を訪れるなら丸一日を費やしてでも行くべき、最高の聖地です。








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