メキシコシティの高級住宅街サンアンヘルにある美術館の中でも、芸術好きなら絶対に見逃せないのが、カリージョ・ヒル美術館(Museo de Arte Carrillo Gil:MACG)です。
館内には、メキシコ壁画運動を代表するディエゴ・リベラ、ホセ・クレメンテ・オロスコ、ダビッド・アルファロ・シケイロスの貴重なコレクションが数多く収蔵されており、さらにエッジの効いた現代アートや実験的な展示まで楽しめるため、何時間いても飽きません。
今回は、カリージョ・ヒル美術館の歴史や見どころ、実際に訪れて感じた魅力を、写真とともに紹介します。

カリージョ・ヒル美術館とは?
カリージョ・ヒル美術館は、メキシコの医師であり実業家、そして伝説的な美術コレクターでもあったアルバル・カリージョ・ヒル(Alvar Carrillo Gil)によって築かれたコレクションをもとに誕生した美術館です。
彼は1930年代から作品収集を始め、特にオロスコの作品に魅了されました。その後、リベラやシケイロスの作品も積極的に収集し、20世紀メキシコ美術を代表するコレクションを築き上げます。1972年にコレクションと建物をメキシコ政府へ譲渡し、1974年に現在の美術館として開館しました。
現在ではメキシコ国内だけでなく、ラテンアメリカ全体でも有数の近現代美術コレクションとして知られています。

メキシコ三大壁画家の名作を間近で鑑賞できる
この美術館最大の魅力は、メキシコ壁画運動を代表する3人の巨匠(Los Tres Grandes)の作品をまとめて鑑賞できることです。
- ディエゴ・リベラ(Diego Rivera)
- ホセ・クレメンテ・オロスコ(José Clemente Orozco)
- ダビッド・アルファロ・シケイロス(David Alfaro Siqueiros)
国立宮殿や公共建築に描かれた巨大壁画とは異なり、ここでは彼らの油彩画やデッサン、版画などを至近距離で見ることができます。壁画家としてだけではなく、一人の画家としての実験的な表現や思想に触れられるのが、この美術館の大きな強みです。

館内で出会える巨匠たちの名作
① ディエゴ・リベラ『建築家(ルピノ・ヘルナンデス)の肖像』
リベラがヨーロッパ滞在中に傾倒していた、非常に貴重な「キュビスム(立体派)」時代の傑作です。メキシコ風の壁画とは一味違う、幾何学的な構成美を堪能できます。

ディエゴ・リベラによるキュビスム時代の絵画。

壁画で有名なリベラ。彼の絵画を見れる機会は貴重。
② ホセ・クレメンテ・オロスコ『崩壊する建物』
オロスコらしい、力強く激しいタッチで描かれた作品です。歪み、崩れ落ちる高層ビル群の描写からは、近代化への批評性や、うねるような圧倒的エネルギーがダイレクトに伝わってきます。

ホセ・クレメンテ・オロスコ作。うねるような筆致で描かれた、文明の崩壊を予感させる力強い一作。

オロスコの作品をこれほど間近で味わえるのは、この美術館ならでは。
③ ダビッド・アルファロ・シケイロス『不詳(抽象的な有機体)』
3人の中で最も技法的な実験を好んだシケイロス。湾曲した支持体に、厚塗りのテクスチャーと有機的な造形を組み合わせた本作は、絵画でありながら彫刻のような立体感と生命力を放っています。

湾曲した変形キャンバスに描かれた、シケイロスらしい前衛的な作品。

シケイロスの作品もかなり充実しており、メキシコの美術ファンは必見。
ガンサー・ゲルソの展示も見逃せない
館内には、メキシコ抽象絵画の巨匠として知られるガンサー・ゲルソ(Gunther Gerzso)の作品群も展示されています。
ゲルソは壁画運動の写実的・政治的な表現とは一線を画し、内省的で幾何学的な抽象空間を追求した芸術家です。鋭い直線と鮮やかな色彩のレイヤーが特徴で、開館時からコレクションの重要な一部として収蔵されています。

ガンサー・ゲルソ作。マヤやアステカの遺跡構造を思わせる、幾何学的で洗練された抽象世界。
現代アート好きにもおすすめ:実験精神を受け継ぐ空間
カリージョ・ヒル美術館は近代美術だけの施設ではありません。むしろ現在は、若手アーティストの登竜門であり、実験的な現代アートやコンセプチュアルアート、大規模なインスタレーションの発信拠点として、メキシコのアートシーンを索引しています。
建物自体も、建築家アウグスト・H・アルバレスによるスロープ構造(緩やかな傾斜の通路で各階を繋ぐ設計)になっており、歩きながら空間全体のアートを体験できるようになっています。

美術館の吹き抜けスロープ空間。ガラスの天井から無数の靴が吊り下げられている。

美術館自身の美しい建築も見どころのひとつ。
空間を活かしたアヴァンギャルドな展示例
館内では、その時々のアーティストが空間を大胆に使った企画展を開催しています。

白い壁の展示室に、赤い伸縮性のある布と石を使った巨大な幾何学的インスタレーション。

展示室の床に配置された、土の上に横たわる巨大な人間の骸骨オブジェ。

展示室の壁一面に施された、黄色・黒・白の幾何学的な幾何学模様のオプ・アート風壁画。
カリージョ・ヒル本人の足跡と、おしゃれなお土産コーナー
コレクターとして知られるアルバル・カリージョ・ヒルですが、館内では彼自身に関する資料や作品、彼が収集した当時の記録も見ることができます。単なる収集家ではなく、メキシコ美術をヨーロッパやアメリカ、日本など世界各地へ紹介し、メキシコ美術の国際的評価向上に大きく貢献した文化的功労者としての足跡を知ることができます。
アーティストの息吹を感じる特設ショップ
鑑賞後に必ず立ち寄りたいのが、1階にあるミュージアムショップです。現役のアーティストたちの作品やグッズがセンスよく並んでいます。
他の観光地のお土産店とは一線を画し、ハイセンスなアートブックやデザイン雑貨、ポストカードなどが揃うため、自分への記念やアート好きな友人へのプレゼント探しに最適です。

ショップのテーブルに並べられた、ミネルバ・アヨン(Minerva Ayón)による手作りの陶器(マグカップや小皿)やアクセサリー。
ライブラリーやカフェでゆったり過ごせる
館内には、一般向けに開かれた美術関連の専門書籍を集めたライブラリースペースもあります。また、小さなカフェスペースも併設されているため、展示を見終わった後にゆっくり休憩することも可能です。
周辺のサンアンヘルの落ち着いた街並みと相まって、「地元のクリエイターや芸術愛好家がインスピレーションを得る空間」という心地よい雰囲気が流れています。
まとめ:基本情報
メキシコ壁画運動の巨匠たちのパッション溢れる作品から、時代を先取る最先端の現代アートまで、メキシコ芸術の「過去と現在」をひと繋ぎで体験できるカリージョ・ヒル美術館。
主要なメガ観光地に比べると静かに、しかし最高にディープなアート体験ができる隠れた名館です。「一歩踏み込んだメキシコのアートシーンを覗いてみたい」という方は、ぜひサンアンヘルの散策と合わせて足を運んでみてください。

| 項目 | 内容 |
| 施設名 | カリージョ・ヒル美術館(Museo de Arte Carrillo Gil / MACG) |
| 所在地 | Av. Revolución 1608, San Ángel, Álvaro Obregón, CDMX |
| アクセス | メトロブス1号線(赤のライン)の 「Altavista(アルタビスタ)駅」から徒歩約5分。 |
| 開館時間 | 火曜日〜日曜日 10:00〜18:00 定休日:月曜日 |
| 入館料 | 一般約70〜90ペソ(※日曜日はいずれも入場無料、特別展により価格変動あり) |
| 所要時間 | 1〜2時間 |
| 見どころ | リベラ、オロスコ、シケイロスの近代絵画、現代インスタレーション、アーティスト特設ショップ |







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